矢吹駆連作

フランスを主な舞台に、素性不明の日本人矢吹駆を主人公にした連作。
著者自身の短文や、解説文などでは、なぜか「シリーズ」ではなく「連作」と記されることが多いようだ。一般にも「連作」と呼ぶ例が多い。

“語り手キャラ”の立場に立つのは、ワトスン役でもあるナディア・モガール。

推理小説の連作。現在のところ、『バイバイ、エンジェル』、『サマー・アポカリプス』、『薔薇の女』、『哲学者の密室』、『オイディプス症候群』の本編5作が公刊されている。

関連作としては、他に、著者自身によって「第0号作品」と呼ばれている『熾天使の夏』、単行本腰帯で「矢吹駆シリーズ日本篇」と銘打たれた『青銅の悲劇 瀕死の王』も公刊されている。

連作の本編シリーズは、思想批評の内容も含み、連作を通して読むと恋愛小説のような要素もうかがえる。

「遍歴小説」「壊れた教養小説」などと評されることもある。

笠井 潔

用語や登場人物

キャラクター

矢吹 駆
モンマルトル街近くの「貧しげで見すぼらしい路地」に面した安ホテルにて、屋根裏の狭い部屋で暮らす素性不明の日本人(自称)。
作中<望ましからざる者>である可能性が示唆される会話がある(『バイバイ、エンジェル』)。
ナディア・モガール
パリ司法警察のモガール警視の娘。大学時代19歳の年の秋に、矢吹駆と面識を得、さらに後、彼と共に関わったいくつかの事件の記録を小説風に記す。つまり、矢吹駆連作本編の語り手キャラとして設定されたキャラ。
用語や人名
解説

ガジェット(小道具)

用語や人名
解説

用語

用語や人名
解説

関連する用語

遍歴小説
本編で主人公(矢吹駆)が他のキャラに語るところを総合すると、駆は、「ヒマラヤの山中にある古びて崩れかけた僧院」で修行をしていたことがあるようだ。3段階あると予告された悟りの第2段階まで到達したところで、メートル(導師)に、下界に赴くよう命じられた。
第3段階の悟りは、下界で“悪の内の悪”と闘わなければ、到達できないらしい。少なくとも主人公はそう考えているようだ。
壊れた教養小説
伝統的な教養小説が、古典的な市民社会での人物の成長段階を描くのに対し「教養小説に似た構図を持つが、古典的成長の図式が壊れていることが描かれている」といった主旨。
第0号作品
熾天使の夏』の事。『バイバイ、エンジェル』に登場する以前の駆の事が描かれているらしい。そうだとすると、「矢吹駆」とは、彼が使っていた幾つかの変名の1つだった、と示唆する内容も記されている。
この物語の語り手はナディア・モガールでは無い。変名(党名)で「カケルさん」と呼ばれる男性の1人称小説になっている。
青銅の悲劇 瀕死の王
通例、出版社(編集部)の文責とみなされる腰帯で「矢吹駆シリーズ日本篇」と銘打たれている。が、この作品の語り手キャラクターは、ナディア・モガールでも、カケルさん(矢吹駆)でもない。この作品と連作の関連付け(矢吹駆シリーズ日本篇)には、読者によるNET書評で批判も見られる。

物語の背景

  • バイバイ、エンジェル
    • 語り手のナディアが19の冬に体験した出来事が20になった5月の視点から回想、整理されている。
    • 物語の背景はスペインがまだ独裁政権下にあった時期。
    • おそれらく、フランスはドゴール政権下にあった時期と推測される。
    • 5月革命(パリ騒乱)のあった1968年よりは確実に後で、あるいは数年後(?)といった雰囲気。
      (この件は後に『哲学者の密室』序章に記されたナディアの回想で、少し細かな限定がなされる事になる)
  • サマー・アポカリプス
    • 『バイバイ、エンジェル』で語られた出来事に続く、ナディア20の年の5月末から10月下旬にかけての出来事が回想、整理されている。
      「物語内の今」の時制で語られる出来事の内、最も最初の時間は、『バイバイ、エンジェル』で語られた最後の出来事の1週間後になっている(第一章)。
    • 回想する視点はいつ頃が想定されているかは定かでないが、10月下旬か、それよりは後。

メモ

書誌情報(関連作品)

バイバイ、エンジェル
(旧題『ラルース家殺人事件』)

サマー・アポカリプス

  • 1981年単行本刊行(単行本書名『サマー・アポカリプス ロシュフォール家殺人事件』)
  • 1984年角川文庫版刊行(書名『アポカリプス殺人事件』)
  • 創元文庫版(1996年)書影

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薔薇の女

哲学者の密室

オイディプス症候群

天使/黙示/薔薇

熾天使の夏

青銅の悲劇 瀕死の王

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