戦争と死の危険のさなかでさえ、人間が意図的に他人を殺そうとすることが、いかに困難であるのか。
全体としては、膨大な聞き取り調査からの「戦争における殺害」の心理についての話が大半を占めています。人間にとって一般には人を殺そうとすること、人を殺す覚悟をすることが、どれだけ心に傷を残すのか。というあたりの話が盛りだくさんです。一兵卒から叩きあげで中佐になった、レンジャー出身の人が、歴史と心理学の学者をやり、教授になる。そして、こういう本が米軍で教科書として利用されている。というのに、アメリカの凄味を感じますね。
原題は On Killing: The Psychological Cost of Learning to Kill in War and Society 。
内容紹介
人は人を殺せない。第二次大戦での聞き取り調査によると、実際に発砲をを行なった兵士20パーセント以下、そのほとんどが意図的に狙いを外していた。人は、たとえ自分が殺されるとしても、人を殺すことができない。
戦闘を続けても平気でいられる人間は、実際に大半の殺生を行うのは、わずか2%の人間でしかない。他の人間は、威嚇し、逃避し、たとえ殺されるとしても降伏するのだ。しかし、そのことが分かった結果、朝鮮戦争とベトナム戦争では条件付けにより発砲率が急上昇。それがゆえに歪みも生じた。
ところで現在アメリカでの加重暴行は急増する一途である。暴力的で私的制裁を良しとする映画、出てくる人間を撃ち殺すテレビゲームなどは、典型的な条件付けと同様で「殺人に対する抑制」を解除しているのではないか。
「戦争を遂行できるようにする」心理的手法
- 権威者の要求(例の電撃ボタン実験から、人間がいかに自分でやりたくないことでも権威にしたがって行なうか)
- 集団免責(誰がやったのか明確でない集団射殺などでは心理的に楽、仲間の目を気にして攻撃するなど……恥の文化は日本特有ではない)
- 物理的距離(敵が見えないほど殺傷しやすい)
- 心理的距離(敵を殺すことを合理化する理由付けとして、敵を貶めるなど)
- 指揮官+兵士というのは、指揮官は自分で手を汚さない、兵士は権威に従うだけである、という心理的な抑圧を逃れやすい手法である。
メモ
書誌情報
ちくま学芸文庫
原書房(単行本)
原著
話題まとめ
チャットログ
- http://military.cre.jp/irc/2004/06/20040613.html
- 紹介。いろいろと意外な事実が出てくるようで興味深い。
- http://www.cre.ne.jp/writing/IRC/write/2004/06/20040613.html
- いかに人間が人を殺すことが難しいのかというのが実証的に出てくるっぽいです。
- http://military.cre.jp/irc/2004/06/20040617.html#140000
- 読了報告。内容概説。「戦争を遂行できるようにする」心理的手法。
- http://www.cre.ne.jp/writing/IRC/write/2004/06/20040617.html#220000
- 人を意識して殺せる人間は少ない。おそらくテレパスに人は殺せない。などの創作への応用を考える。戦争における個人の行動は、動物における同種同士の闘争と全く同様に「闘争」「威嚇」「逃避」「降伏」に分けられるという。
- http://www.cre.ne.jp/writing/IRC/write/2004/07/20040707.html#030000前後
- 人を殺すという精神状況と訓練。
- http://www.cre.ne.jp/writing/IRC/write/2004/07/20040720.html#210000
- 銃を撃ちまくるわりにしなない刑事ものは、どちらも人に向かっては撃てない威嚇だったから説。
- http://www.cre.ne.jp/writing/IRC/write/2004/08/20040809.html前後
- 切り殺すより突き殺す方が心情的に困難とか興味深い。鶏をシメるなど昔は「生き物を殺して生きる」ことが日常であったなあ。
- http://www.cre.ne.jp/writing/IRC/write/2004/08/20040813.html
- 朝鮮戦争以降、銃を人に向けて撃つ率が上がった理由とか、いろいろ興味深いことが盛りだくさん。
- http://www.cre.ne.jp/writing/IRC/write/2005/03/20050317.html#120000
- Missingの最新刊で、この作者「人殺しの心理学」読んだのかなあと思える一節があった。鋼の錬金術師の最新刊でも買っている風景があった。
- http://www.cre.ne.jp/writing/IRC/write/2005/04/20050406.html
- 実例に基づいて、過去の研究と比較して論考を加えていくので 自分でも考える余地がある。アプローチの仕方が良い。
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- trackback : 戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)/デーヴ・グロスマン (著)、安原和見 (翻訳) (読書日記と着物あれこれ) (2008-09-19 (Fri) 01:39:05)
序盤では、通常の人間が、いかに「人を殺すことに抵抗があるか」を様々な戦争での実例が挙げられている。第二次世界大戦では米軍歩兵の平均的な発砲率が、わずか15〜20%にすぎなかった。ほとんどの兵士は発砲の際も命中することを求めず、とにかく敵を撃ちたがらない。兵士の多くは弾を込めるフリをし続けることで、ひたすら発砲の責任から逃れていたらしい。ところが、ベトナム戦争では発砲率は90%へと一挙に駆け上が..