PLUTO
故・手塚治虫の著作「鉄腕アトム」シリーズの長編「地上最大のロボット」の全面リニューアル作品。
斬新なキャラクターデザインと新たなストーリー解釈によって話題を博す。
第9回手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞。
2005年度文化庁メディア芸術祭 マンガ部門優秀賞受賞。
用語や登場人物
登場人物
- モンブラン
- スイス林野庁所属の森林保護担当官として親しまれていたロボット。Act.1(1巻)冒頭で描かれる山火事の跡から、彼のボディは、バラバラの状態で発見される(やはりAct.1)。
作中、追悼式のために用意された画像で、モンブランは、詩人であり“鳥と歌い森の木々と語りあうことができた”と語られた(Act.2,1巻)。
- モンブランは、かつて第39次中央アジア紛争に派兵された平和維持軍に参加していた。(Act.2)
- Act.3(1巻)では、モンブランが、科学技術の粋を集めて作り上げられたロボット達、大量破壊兵器にもなりうる7体のロボットの1つだった、と語られる。
- Act.8(2巻)では、世界最高水準のロボット7体が「大量破壊ロボット製造禁止条約」が国連で可決する前に製造されたロボット、つまり「大量破壊兵器になり得るロボット」の事らしい、と読者に示唆される。
この件が、確定的に語られるのは、Act.13(2巻)でのこと。
- PLUTO(プルートウ)
- 正体不明のところから物語ははじまる。おいおい、読者には、連続ロボット殺害事件の実行犯である、強くて大きいロボットのことらしい、と察せるのだが……(?)。
- Act.3(1巻)で、かつて人間を殺害し収監されているロボット、ブラウ1589が、モンブラン殺害事件、謎の殺人事件、2つの現場に遺されていた“角”を連想させる遺留品から「冥界の王プルートウ」のイメージを読みとる。
- ニック・ネームの類ではなく、作中で「プルートウ」の固有名を名付けられたロボットが実在することが、確定的に語られるのは、Act.22(3巻)でのこと。
- ゲジヒト
- ユーロポールの特別捜査官であるロボット。
ゲジヒトは、初登場のシーンから、悪夢にうなされ、「このところ疲れてるみたい」(妻である女性型ロボット、ヘレナのセリフ)として描写されている(Act.1,1巻)。
- Act.1で、ゲジヒトは、ユーロ連邦のデュッセルドルフで起きた、ベルナルド・ランケ殺害事件の捜査に加わり、さらにモンブラン殺害事件にも関わっていくことになる。
- Act.2(1巻)では、ゲジヒトの定期メンテナンスシーンで、担当のホフマン博士が、ロボットの疲れについて、次のように語る。
「ロボットは/疲れないと/思っている/人間は多いが、」「これだけ/人間に近づくと、/ロボットだって/疲れるんだよ。」「逆に言えば/人間の体だって/メカニズムなんだ。」「使いすぎれば/どんなメカニズムも/疲労する。」 - Act.2の定期メンテナンス・シーンで、ホフマン博士は、ゲジヒトの見る夢への関心も示す。「人工知能にも潜在意識が存在するというのは学術的にも証明されているんだが、」「実際に夢を見るというロボットにはなかなか出会わないんでね。」
- Act.3(1巻)で、ゲジヒトはかつて人間を殺害し現在は収監されているブラウ1589を訪れ、一連の事件についての意見を求める。
ブラウは、角のように見える遺留品が「プルートウ」を意味すると示唆。その上で、犯人は、ゲジヒトも含めた大量破壊兵器にもなりうるロボットを破壊していくと、予告する。 - Act.4〜6(1巻)の「ノース2号の巻」の後、ゲジヒトは、各地の大量破壊兵器にもなりうるロボットたちを訪ね、警告を伝えていく。Act.7(1巻)ではイスタンブールにブランドを訪ね、その後アトムを訪ねトーキョーシティに現れる。Act.10(2巻)ではギリシアのヘラクレスを訪れる。エプシロンとゲジヒトが出会うのはAct.20(3巻)でのことで、これは、エプシロンの方からゲジヒトを呼び出した。
(ゲジヒトとエプシロンが会うまでに、ブランドはプルートウに破壊されている。2巻のAct.12でのこと) - Act.14(2巻)では、ゲジヒトが、第39次中央アジア紛争に際して、治安警察部隊の一員として派遣されていたことが回想される。
- Act.18(3巻)では、反ロボット教団の幹部の1人と思えるキャラが、ゲジヒトのことを「ユーロポールが連邦の命運を懸け、過去最大の資金を投入して作り上げたロボットだ。」と語る。
後にこのキャラは、教団の団長であるらしいと読者に示唆される(Act.28,4巻)。
- ベルナルド・ランケ
- ロボット法擁護団体の幹部。人間、男性、42歳。ユーロ連邦のデュッセルドルフで殺害された。この事件の捜査現場にユーロポールから派遣されたのがゲジヒト。
ゲジヒトは殺害現場に犯人の痕跡を感知できなかった。このことから、犯人は人間ではないかもしれない、との疑惑が生じる。
ランケの遺骸は、頭の両脇の床にデスク・ライトのような物と、金属棒のような物が突き立てられていた。角のようにも見えるこの遺留品は、ランケ殺害事件と、モンブラン殺害事件とに関連がある可能性を示唆していた。
(Act.1,1巻) - Act.2(1巻)では、ホフマン博士がゲジヒトに、ランケのことを「敵を作る」「敵が多すぎる人物」と評す。
- Act.9(2巻)では、ランケの事を問うアトムに、お茶の水博士は、「ちょっと/問題の多い男だった」と語る。
引き続くアトムとお茶の水博士との会話で、ランケが、第39次中央アジア紛争の際にペルシア王国に派遣された「ボラー調査団」の一員だったことが読者に明かされる。
- ホフマン博士
- ゲジヒトの定期メンテナンスを担当している科学者。Act.2(1巻)で登場した博士は、ゲジヒトが見る夢の内容に関心を示すが、「無理に聞こうってわけじゃない」「話す気になったら、ぜひ聞かせてくれないか。」と語る(やはりAct.2)。
- Act.18(3巻)で、ゲジヒトから、彼の記憶が過去に改竄されていたかもしれない疑惑を告げられたホフマン博士は、ユーロポールのシェリング局長を問いただす。しかし、「君は彼のメンテナンスをしてくれていればいいんだ。」といなされる。
- Act.29(4巻)では、ホフマン博士が「ボラー調査団」の団員だったことが、暗示的に語られる。
実は、Act.10(2巻)の内で描かれたお茶の水博士の回想イメージに、ホフマン博士らしきキャラクターが描かれている(が、帽子を被っている絵が3コマで、最初は、言われればそうかもしれない、くらいの感じ)。 - Act.30(4巻)では、ホフマン博士がゲジヒトの「生みの親の一人」だと語られる。
- ブラウ1589
- かつて人間を殺害し、ユーロ連邦のブリュッセルで、人工知能矯正キャンプに収監されているロボット。Act.3(1巻)から登場。
謎の連続ロボット殺害事件、殺人事件の繋がりを探るゲジヒトは、両方の事件の実行犯がロボットである可能性について意見を求めようと、ブラウ1589を訪れる。(Act.3)
- ブラウ1589は、強力な電磁波を発し、近くの人工頭脳を狂わせることがあるそうだ。(Act.3)
- 「滑稽なほど/必死で作りあげた」幾重もの「バリケード」の内に拘束されているブラウ1589は、両脚部が大破、ボディもかなり破損した上、ご丁寧にも大きな槍のようにも見える物に胸のあたりを突き刺されている。
- Act.3でブラウ1589は、訪れてきたゲジヒトに「お互い/もっとわかり/あわないか?」と、メモリーチップの交換を申し出るが、「いや……/遠慮しとくよ」と断られる。
後に、ゲジヒトは、ブラウとメモリーチップの交換をする(Act.15,2巻)。 - Act.8(2巻)では、アトムがお茶の水博士にブラウ1589の事を尋ねる。
ブラウの人工知能にどういう欠点があったのか? と質問するアトムに、お茶の水博士は「完璧/だった……」と答える。アトムは「人を殺す/完璧……」「それは/どういうこと/です?」と反問。無言の博士に、重ねて「それは……」「“人間”ということですか?」と問う。
- ノース2号
- ユーロ連邦のスコットランドにて、ハイランドの館で暮らす盲目で偏屈な音楽家、ポール・ダンカンの下へ、業者に紹介された、と、新しい執事としてやって来たロボット。Act.4(1巻から登場)
「おまえは軍隊出身だそうじゃないか。」と問うダンカンに、「はい。第39次中央アジア紛争の際、」「ブリテン軍の総司令官、アンドリュー・ダグラス将軍の執事をしておりました。」と自己紹介をする。
- 1巻に納められたAct.4〜Act.6(「ノース2号の巻」前、中、後編,1巻)は、連作の内でも、比較的独立性の高いユニットとして読めそうだ。
- Act.4のラスト・パートで、「ピアノを/弾けるように/なりたいのです。」と言うノース2号に、ダンカンは「おまえのような/武器に、」「ピアノなど/弾けるものか!」と語る。
「おまえには/戦場が/お似合いだ!!」と語るダンカンに、ノース2号は「だから/弾けるように/なりたいのです」「もう……」「戦場に/行きたくない/から……」と応える。 - Act.5では、ノース2号が悪夢にうなされる様子が描写される。
- ブランド
- ロボット格闘技界で「史上最強の戦士」「格闘王」と呼ばれるロボット。ユーロ連邦のイスタンブール(トルコ)に住んでいる。
Act.7(1巻)で初登場してすぐ、ブランドは、試合の勝敗について「運」の要素を語る。
「ロボットが/“運”なんて/言うと、/人間は笑う/がね……」「じゃあこっちが/逆に聞きたいね、/百パーセント/計算しつくされた/試合を観て/面白いかってね!」と語るブランドに、ゲジヒトは「運か……」「そんなこと/考えても/みなかった……」と応える。
- ブランドは、一般性活用ボディと格闘用のボディとを使い分けるタイプのロボット。こうしたタイプのロボットもいる事が、Act.7冒頭にて、画像で描写されるのが、作品を通じて始めての設定描写になっている。
Act.11(2巻)では、(恐らく人工知能を搭載しているのだろう)ブランドの頭部が生活用ボディから格闘用ボディに換装収納される様子が描写される。 - Act.7では、ブランドの家庭が描写される、妻と子どもが4人いる家庭で、描かれた雰囲気は、ゲジヒトの家庭(妻、ヘレナと2人)とはかなり違う感じ。
- Act.7で、ブランドは「モンブランとは、/第39次中央アジア/紛争で知り合った。」とゲジヒトに語る。
続く会話、ノース2号が殺された事を語るゲジヒトは、ブランドに「あなたの身にも、/危険が/迫っています。」と語る。
- アトム
- アセアンのトーキョーシティ(日本)に住む少年型ロボット。Act.7(1巻)で初登場。
- Act.7では、アトムを訪ねてきたゲジヒトが見ている前で、植え込みの内からカタツムリをつまみ上げ、再び植え込みの内に戻すアトムの様子が描かれる。
- 「アセアン」という地域名(?)は、Act.14(2巻)で使われている。用法は「ヨーロッパ」と対照されているので、単なる地域名かもしれない。つまり「ユーロ連邦」のような架空の政治単位としては使われていないのかもしれない(?)。
(あるいは、その辺をうまく曖昧化している表現なのかもしれない。「アセアン」地域名に使う用法はリアル・ワールドでは2義的な意味合いだからだ) - Act.8では、ゲジヒトとアトムとの会話で、アトムも第39次中央アジア紛争の平和維持軍に派遣されていた事が語られる。
- Act.8でのアトムは、「本当に/おいしそう」にものを食べるロボットとして描写されている。
アトム曰く、「人間の言う/本当の感覚は/わかりません/けど……」何かの情動を感知しているらしい。
「マネを/している/うちに……」「わかるような/気がして/きたんです。」「おいしいって/ことが……」と語るアトムは、ゲジヒトを驚かせる。
ゲジヒト「やっぱり/噂にたがわず、/君はすごいな……」「私なんかよりも、/はるかに君の/人工知能が/優秀だと/いうことが/わかったよ。」 - Act.8では、アトムが過去にサーカスに売られた経験のある事が本人の口から語られる。これは原作の方の手塚版「鉄腕アトム」シリーズと共通した設定になる。
- Act.8で、ゲジヒトから連続ロボット殺害事件に警告を受けたアトムは、ゲジヒトのメモリー・チップを借り、記憶データを読取る。「私が気づいて/いない情報が、何か見つかると/いいんだが……」と、語るゲジヒト。
ゲジヒトのメモリーを読み込んだ直後、アトムは手洗いに席を外し、ゲジヒトに見られないように涙を流す。この場面は、重要な伏線と思われる。 - Act.9(2巻)で、アトムはお茶の水博士に「危険が/迫っています。」と警告する。
「命を狙われて/いるんです。」「ボラー調査団の/元メンバー全員が……」
- 田崎純一郎
- 「国際ロボット法」を発案した法学者。Act.8(2巻)の冒頭で、殺害された田崎氏の現場捜査場面が描かれる。田崎氏の遺体は、頭部に角のように見える2本の木の枝が突き刺されていた。
- Act.9(2巻)で、田崎氏の遺体の立体画像を見たアトムが、角の刺さった様子から「プルートゥ」の名を連想する。この連想は、ゲジヒトのメモリーから読み込んだブラウ1589の記憶によるようだ。
- お茶の水博士
- 日本の科学省長官。Act.9(2巻)から登場。ボラー調査団の1員だった。
- ゴジ博士
- 第39次中央アジア紛争のきっかけになった、ペルシア王国の大量破壊ロボット保有疑惑の背後にいた、とされる科学者。天才科学者だったと言われるが、名前は通称で「本当の名前はわからない」「顔も公になっていない」「そんな人間が実際に存在するのかすら、わからない」とお茶の水博士は語る(Act.10,2巻)。
- ヘラクレス
- ロボット格闘技界で「闘神」と呼ばれるロボット。ユーロ連邦のギリシアを活動拠点にしているらしい。ブランドとは、過去4試合のいずれもがノー・コンテンストだった好敵手。
- Act.8(2巻)で初登場してすぐヘラクレスは、訪れたゲジヒトに、自分は「対戦相手を/破壊する/殺人マシーン」と称しつつ、最近の試合は「甘くなった」事を認める。「殺意」を身につけたロボット、とも自称している。
- Act.8でのゲジヒトととの会話では、ヘラクレスも第39次中東アジア紛争に派兵され、戦場でブランドと知り合った事が語られる。
用語
メモ
- 単行本各巻書影のキャラは次の通り。
- 1巻=ゲジヒト(ロボット刑事)
- 2巻=アトム
- 3巻=ウラン
- 4巻=天馬博士
- 5巻=ヘラクレス(元ロボット兵士)
- 6巻=お茶の水博士
書誌情報
通常版
豪華版(特装版)
同タイトルの豪華版。雑誌とほぼ同サイズで、雑誌掲載時カラーだったページは、掲載時同様、カラーで刷られている。
また、各巻には、別冊などの付録もついている。
話題まとめ
チャットログ
- http://www.cre.ne.jp/writing/IRC/write/2003/08/20030820.html#060000
- 浦沢直樹の新作は鉄腕アトムからネタ引っ張るそうで。「地上最大のロボット」だそうです。「誰かが手塚治虫に挑戦しなければならない」とかなんとか、しきりに煽っていた。
- http://www.cre.ne.jp/writing/IRC/write/2005/04/20050427.html#190000
- 二巻買いました。感情描くの上手いなぁ、やっぱり。アトム可愛いですよ。
- http://www.cre.ne.jp/writing/IRC/write-ex1/2007/11/20071130.html#110003
- PLUTOの天馬博士は凄みがあって、印象強い。
- http://www.cre.ne.jp/writing/IRC/write-ex2/2007/12/20071201.html#090003
- 『PLUTO』浦沢直樹を、1巻から5巻まで読み直した。ゲジヒト刑事を焦点に据えて、『PLUTO』のプロット追ってみると、連続ロボット殺害事件と、連続人間殺害事件が続いてて。両方の現場には、PLUTOのサインが残されてる。ってのが、今のところの展開(ゲジヒト中心整理)。