ロジバン

ロジバン Lojban

ロジバン (lojban) は、ログランを元に、より万全な機能性を目指して1987年に開発された人工言語である。非営利団体 LLG により引率されている。1997年に文法が暫定的に完成をみ、以来さまざまな国の人々による研鑽が進んでいる。

万能な記述形態として知られる述語論理が文法の基盤をなしている。これにより、自然言語では表現が困難であるような複雑な意味合を、ごく明確に記述することができる。文章の論理的矛盾を見つけることも容易となっている。また、特定の語派系統の原理に従った各自然言語およびエスペラントインターリングアといった人工言語とちがって、きわめて多様な表現形態を使い分けることができる。比較言語学あるいは言語学全般の研究への貢献、それから自動翻訳における言語間の橋渡し的媒体としての役割などが期待されている。

いかなる不規則性をもきたさないロジバンの表記法や構文法はまた、コンピュータによる解析や人による学習を容易にしている。日常会話だけでなくプログラミングにも適っており、機械と人間が同じ言語を共有できるようになる将来を示唆するものとして注目されている。

命題の記述に用いられるものとは別に、モダリティや感情を表すための特殊な語彙セットをロジバンは備えている。ラーダンやナバホ語にヒントを得ており、日本語の助詞にごく近いものでもある。これらによって、話者が自覚できるかぎりでどんな態度や情感をもかなり繊細な機微にいたるまで表現することが可能となっている。声を伴わずイントネーションの確認がとれないようなチャットなどのやりとりにおいて自然言語が顔文字に依存しているところの機能をこれら態度詞がまかなう(ロジバンのチャットで実例がみられる)。一つ一つの態度詞は組み合わせてより複雑なレベルに深めることもできる。“合理的言語”という肩書にたいする一般のネガティヴな先入観に反して、ロジバンは人間の心情を表現することに関して最も洗練された高度な仕組を備えた言語の一つであるといえる。

ロジバンでは既成の単語から新しい言葉を合成することが手軽にできる。約1200あまりという語根の数自体が自然言語におけるいわゆる常用単語の数と比べてはるかに少なく、それであって可能な総語彙数(最低でも144万語)が自然言語のそれをはるかに超える。同音異義語は原理的に存在しない。合成語を構成する要素の一つ一つは即座に本来の語根として照応できるようになっており、これすなわち語根を習得することが全ての語彙の認識への道につながる。

その自在性・創造性の高さからロジバンはまた文芸の手段としても大いに活躍する(もともと開発の目的自体が、ものごとの表現にたいする人間精神の自由を培うための言語を作ることだった)。

当初の開発者および現在の話者達に一貫して、自己の文化的な背景に流れず努めて中立を保つことが志されている。その現れの一つとして、従来の人工言語にはみられないほどに広範な語派を源泉として独自の語根を創出したことが挙げられる。これらの語根は、主にアラビア語、英語、スペイン語、ロシア語、ヒンディー語、そして中国語から選ばれた語彙の一つ一つを、専用のアルゴリズムのもとコンピュータで融合することで生まれた。音韻は、各自然言語に広くみられる共通の音声を求めた結果としてエスペラントのものと同様である。表記文字は公式には指定されておらず、言文一致の原理を維持できるならばどの表記体系も認められる(不完全ながらも日本語平仮名による表記の例もある)。今のところ主流であるラテンアルファベットを用いた表記では、ASCII に準じたかたちをとっており、エスペラントのように特殊な文字セットを要することがなく、各国のどのコンピュータ・キーボードからでも即座に入力できる。

エスペラントとの相違点としてもう一つ、単数・複数や男性・女性といった文化特有的な識別に言葉の形が影響されない、ということが挙げられる。これは、男性形を基本として女性形が派生されるという男尊女卑の意識を回避できるということでも有意義な原理である。数の明示・非明示は話者の意志に委ねられる。表現のこのような自在性はロジバンに一貫してみられる特徴である。

先立つログランの目的がそもそもサピア・ウォーフの仮説の如何を研究するための言語的基礎を用意することだった。言語は人の思考形態を左右する、というこの仮説にたいする肯定的な姿勢をロジバンは継承している。ときに閉塞的であったり不条理であったりする伝統と慣習を土台とする自然言語による思考の枷から離れて物事を理解し語ることの価値をロジバニストは認識する。

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