ソシュールが一般言語学で提出した概念、用語。“Diachlonie”(ディアクロニー)。
「ある言語、あるいは記号体系の共時態としての構造が変化する仕方(体系の変化様態)」を意味するが、その理解には議論がある。
日本語では「ディアクロニック(通時的)」の語形で用いられる頻度も高いかもしれない(例えば「ディアクロニックな変化」といった用法)。
基本前提
「通時態」の概念は、「共時態」の概念と対にして理解するとつかみ易い。
ソシュールは、『一般言語学講義』で、概ね次のような比喩を用いて通時態と共時態を説明している。
「(言語の)通時態が、植物の構造を縦方向に把握した理解だとすると、共時態とは、横断面で、ある言語の在り方を整理した様態にあたる」
ただし、上の比喩は文字通りに採るべきではない、との議論もある。
ソシュールは、言語の共時態研究を「静態(論的)研究」、通時態研究を「動態(論的)研究」とも呼び、「静態研究(共時態の研究)は、動態研究(通時態の研究)より優先されるべき」と唱えた。
機能主義的学説
1930年代にフランスの言語学会で確立されたとされる言語学学説では、通時態は、共時態との関連で次のように理解された。
「通時態とは、諸言語の共時態が断続的に変化する変化の仕方(様態)を意味する」
「共時態は、ある言語の構造様態を、必要に応じた時間幅の内で考察、整理したモデルなので、通時態とは、関連の深い複数の共時態の間の変化を整理したものになる」
この理解では、「通時態研究」とは、歴史言語学研究の再定義と考えられた。
歴史言語学で再建される言語の比較検討は、通例「歴史」の語から連想されるような「連続的な変化」ではなく「断続的な変化」だ、との指摘が含意された形になっている。
動態論的学説
ソシュールの草稿、生前の講義で採られた講義録などの研究から導かれた学説では、主流的な説として通時態は次のように理解されてきている。
「通時態とは、諸言語の共時態が突発的に変化する変化の仕方(様態)を意味する」
「共時態は、語る主体の意識が通例想定しているルール系をモデル化したものなので、通時態とは、ルール系の突発的な変化の動態を整理したものになる」
おそらく、この理解で言われる「突発的変化」をイメージするには、物語化されたヘレン・ケラーの伝記(『奇跡の人』)で、主人公が「水(Water)」の言語記号を突発的に理解する場面を思い起こすといい。
上記の場面は「通時態」そのものの理解としては不正確で、あくまで類比でしかない。
しかし、「突発的変化」の理解の助けにはなるはずだ。
あるいは、発達心理学などで研究される、成長過程ので言語習得で習得される言語体系が、ある時期に飛躍的に変化する様子なども理解の助けになるだろう。
(成長過程の児童の言語習得は、語彙は少なくても、機能するシステムになっている。語彙が増えるにしたがって機能が増すのではなく、ある段階で、比喩的にシステムの組み換えと呼べるような飛躍が生じる)
動態論的学説の立場からは、機能主義的学説で言われる“通時態”は「比較共時論」などと呼ばれ、「通時態」とは区別される。
(一部で、機能主義的に言われる“通時態”を「超時態」と改める提案もされているが、この用語は今のところ広まっていないように思われる)
関連人物や用語
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メモ
- あるいは「ディアクロニック」の語形は、和製のカタカナ語かもしれないが、未確認。