マゾ
被虐嗜好(相手から肉体的精神的苦痛を受けなければ性的満足に到達できない性向、マゾヒズム(masochism…のドイツ語読み))の略。
または、そうした性向の持ち主、マゾヒスト(masochist)の略。
上記は、現在の精神医学での厳密な定義であり、「精神的肉体的苦痛を受ける」ことを好んでも、「その行為を経なければ性的満足に到達できない」わけではない性向は、現在は必ずしも、「異常性欲」とはされていない。
こうした精神医学の動向と、どこまで関係しているかは不明だが、「精神的肉体的苦痛を受けることで性的満足を得る」というほどでなく、多少いぢめられても構ってほしがるタイプのキャラクターなどが「マゾ」と呼ばれることもある。
語源はオーストリアの作家ザッヘル・マゾッホ。代表作は『コロメアのドン・ファン』、『四世紀間の恋物語』、『カインの遺産』など。
マゾヒズムの由来となるだけあって、そういう嗜好の主人公が登場する。
関連する用語
- サド
- 対義語で、加虐嗜好の持ち主のこと
- サドマゾ
- 対義語を一括した表現。あるいは、サディズム行為とマゾヒズム行為が組み合わさった性的行為も指す。略してSM。ちなみに、その筋の人々の間では「SM」の語は好まれないらしい。「躾」「調教」「discipline」などと呼ばれるとか。
- リバーシブル
- サドとマゾ両方の嗜好を併せ持つこと。最近は、「リバーシブル」のことを「サドマゾ」と言うこともあるらしい。
- マゾヒスト
- 解説本文にあるように、マゾヒズムの性向を持つ人をさすが、資料類によるなら、しばしばSM関係においては、僕〔しもべ〕、下僕、奴隷、ペット、などなどと呼ばれるらしい。いずれも「支配と従属」関係の「従属者」の位置を意味すると言われる。極端な場合「従属『者』」としてすら認められず、「所有物」と呼ばれることもあるそうだ。
関連する商品
資料
小説
bk1 - ひざまずいて足をお舐め(新潮文庫版)
山田 詠美、著。この小説の主人公は、小説を書いている女性。なぜ、「マゾ」の項で挙げるかと言うと、主人公がSM風俗のクラブで、女王様役を勤めるパートが、全編のある程度の割合を占めているからだ。主人公はサディスティンとは設定されていない。SMクラブを訪れるマゾヒストたちとの関わりは数箇所で描かれている(それより、クラブ経営者や従業員間の関わりの描写の方が多い印象だけど)。
bk1 - 娼年(集英社文庫版)
石田 衣良、著。この小説の若い主人公は、ホストを勤めている友人との関わりから、女性相手の会員制売春クラブの女経営者にヘッド・ハントされる。主人公がクラブで親しくなる同僚として、マゾヒストの若者が登場する。主人公が勤めることになる会員制クラブは、SMクラブではない。主人公の同僚は、特殊な嗜好の女性対象の専従員、といった設定だ。
マゾヒズムやSM自体の描き方よりも、主人公の、いろいろな女性たちに対する、構え、スタンスと言ったところが、読みどころの1つだろう。この辺の読みどころについては、集英社文庫版に納められた解説で、姫野 カオルコが、「女性の描き方(見つめ方)は出色です」としている。
解説文は、『娼年』に見られる「女性の描き方(見つめ方)」を焦点に据えることで、石田作品の語り口の特徴を、わかり易く指摘した批評にも及んでいるのだが。それはさておき、姫野 カオルコが注目したように、主人公は作中で接する何人かの女性の、女性ごとに全く異なる性的欲望に、個別に相手をしていく。「まだ足はすくんでいないみたいです。それよりももっと女性のことを知りたい。実際に体験して、自分がどんなふうに感じるか、どう変わるのかを見てみたい」と言うのが、クラブに勤めだしてからしばらくして、主人公が女経営者に語った台詞だ。
こうした「主人公の見つめ方」は、マゾヒストの同僚との関わりでも活きている。マゾヒストの描き方(見つめ方)としては、悪趣味な匂いを招かない語り口が、石田作品らしい、と思う。
(姫野カオルコの「解説」は、うまくポイントをついた批評にもなっている。けれど、解説で直接話題にされていないポイントを巡って、『娼年』が、おそらくは石田作品愛読者の間でも、やや評価がわかれるものだろうことは、一言断っておきたい)
その他
愛を語る
- 白木屋
- 相手を選び、壊さない程度にかわいがってあげましょう。マゾヒストは貴重な資源です。浪費は感心しません(ソドム百二十日なみに使い潰してみたい気もしますが)。